ナフサの供給不足が深刻化-値上げの連鎖が到来
現在、プラスチックや洗剤の原料となるナフサの供給不足が深刻化しており、政府が指摘する「目詰まり」の実態が浮き彫りになっています。主な要因として、石油精製業者が収益性の高いガソリンの生産を優先し、補助金対象外であるナフサの増産に消極的であることが挙げられます。また、統計上は在庫が確保されていても、実際には特定の用途に必要な形状の原料が不足しているという需給のミスマッチも発生しています。この影響は特に中小企業に及んでおり、大口顧客の優先や配送料の値上げといった負担が重くのしかかっています。このように、複雑な流通構造と経済的動機が重なり、製造業の末端にまで調達リスクが広がっているのが現状です。
石油関連業界が自民党会議に提出した「ナフサ不足」内部資料を入手「在庫は3~4ヶ月分。直近はさらに悪化」それでも高市政権が不足を認めようとしない事情
イラン情勢の緊迫が続き、石油化学製品の原料となる「ナフサ」の不足が日本にとって重大な懸案となっている。高市早苗・首相は「年を越えて供給を継続できる」と強気だが、本誌・週刊ポストが入手した内部資料と独自取材からは、その発言とかけ離れたあまりに深刻な現実が浮かび上がってきた――。【前後編の前編】
直近の在庫状況は前月比で9~14%減に
米国とイランの交戦以来、中東の主要な石油・天然ガスなどの関連施設約40か所が深刻な被害を受け、国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は「史上最大規模となる極めて深刻な供給困難に陥っている」と第1次オイルショック以上の危機だと宣言した。
それでも高市首相は「石油供給は大丈夫」と言い続けている。
「年を越えて原油の供給を確保できる目処がついた」――最初は4月7日の記者会見で国民にそう語って安心させ、4月24日の関係閣僚会議では「ホルムズ海峡を経由しない原油の代替調達は、5月は約6割の確保に目処がつきました」と報告、5月11日の参院決算委員会でも「各国からの代替調達を通じ、日本全体として必要となる量は確保できている」と強調した。
EUやアジア諸国が石油消費を抑制する政策を取っているのに対し、高市首相は「現時点ではさらに踏み込んだ節約をお願いする段階にはない」との姿勢を崩さない。
本当に大丈夫なのか。
日本社会ではすでに石油製品の供給不足で大きな影響が出ている。とくに危機的なのがナフサ不足だ。ナフサはガソリン、灯油、軽油などと同じく原油から精製され、エチレンなどの基礎製品を経てプラスチック製品から合成繊維、合成樹脂、合成ゴム、塗料、溶剤など幅広い製品の原料となる。
ナフサ危機の一例を挙げると、医療機関では医療用の手袋やキャップ、エプロン、注射器のシリンジや透析用チューブまで多くの器材が不足している深刻な状況がある。
さらに、ナフサ不足でカラー印刷に必要なインクの原料そのものが入手できない状態だとして、カルビーが「ポテトチップス」などの主力商品のパッケージを白黒に変更するというニュースは世間に衝撃を与えた。
政府はその原因をあくまで「流通の目詰まり」だとして、高市首相も「(目詰まりは)迅速に解消していると聞いている」「まもなくそんなに心配していただかなくてもいい情報もお伝えできるかと思っている」と説明している。
だが、自民党の合同会議では石油関連業界から政府の説明とは正反対のナフサ危機の現状についての報告がなされていた。
本誌は3月24日に自民党本部で開かれた「イラン情勢に関する関係合同会議」に提出された石油化学工業協会、石油連盟の資料を独自に入手した。同会議には小林鷹之・自民党政調会長や関係部会の幹部が出席した。
入手した資料の一つ、石油化学工業協会の〈石油化学産業の状況について〉によると〈川下の製品の在庫は全体で2か月、ポリエチレン、ポリプロピレンといった主要樹脂の在庫は、3~4ヶ月〉として、〈長期的なナフサ供給の影響は、特定の分野というよりも、幅広い分野の製品の生産のための原料供給に、ほぼ同時に影響を及ぼす可能性がある〉と指摘している。
高市首相が「まもなくそんなに心配していただかなくてもいい情報も」と説明したのはこの自民党合同会議の1か月後だった。その間に在庫状況は劇的に改善していたのだろうか。
本誌が石油化学工業協会に取材すると、首相の言葉とは逆に、主要4樹脂(※注/低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの4種類)の直近(3月時点)の在庫状況はいずれも前月比で9~14%と大きく減っていることがわかった。 現在、化学メーカー各社はナフサ不足で減産に追い込まれており、国内のエチレン生産設備の稼働率は3月に68.6%に落ち込んだ。政府がいくら流通の目詰まり解消に動いても、生産量そのものが減っているのだから品不足が解消できるはずがない。ナフサ危機は深まっていたのだ。
首相が節約を呼びかけない理由
こうした業界から提出されたデータを自民党も政府も知りながら、高市首相は国民に「供給は大丈夫」「目処がついた」と言い続けている。 高市政権がナフサ不足を認めようとしないのはなぜか。元経産官僚の政治経済評論家・古賀茂明氏がこう指摘する。
「実際、様々な業界から石油や石油製品の不足について苦情や陳情が多く届いているから、官僚は産業界の現場で石油製品が不足している実情を十分承知しているわけです。私が聞いているところでは、経産省は製品不足を認めないように石油関連業界に箝口令を敷いている。高市総理が石油不足、ナフサ不足は大丈夫だと言い、国民に節約は求めないという姿勢でいる以上、経産省としては足りないとわかっていても認めるわけにはいかないわけです」
そうした高市首相の方針に対し、自民党内でも河野太郎・元デジタル相などは補助金でガソリン価格を下げる政策より「節約を呼びかけるべき」と主張しているが、首相は一顧だにしない。
「高市首相の経済政策、いわゆるサナエノミクスは政府支出で供給能力を高めて景気拡大を図るというもの。節約を呼びかけるといった消費抑制につながる政策はサナエノミクスを否定することになるからやりたくない。だから国民に本当のことは知らせず、石油価格が高騰しても補助金、つまり税金を投入してガソリン価格を低く抑えて石油を従来通り使わせる。石油関連業界や自民党内から省エネを促進すべきとの声が上がっても、高市一強の中で黙殺されているのでしょう」(古賀氏)
では、高市首相が「大丈夫」としている根拠を役所側は持っているのだろうか。内閣官房にぶつけるとこう説明した。
「(根拠は)5月で中東以外からのナフサの輸入量が前年比3倍、月135万キロリットルになっており、今後毎月、この分量を輸入することになっているという経産省が示したデータによるものです」(副長官補室)
そこで経産省に来年までの契約が済んでいるのかを聞くと、「6月分については現在、契約の進捗状況を企業からヒアリングしています。年を越えるまで間違いなく135万キロリットルを超える分量の輸入ができる、と明言はできませんが、そのレベルのナフサ輸入が見通せる状態になっているとは言えます」(製造産業局素材産業課)
「年を越えて供給できる」という言葉は今後も最大量の輸入が確保できると想定した“皮算用”のようなのだ。

