メディア

海外記者が見た「日本のジャニーズ報道の異常さ」

出典:東洋経済 ONLINE2023/09/01 レジス・アルノー
:『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

「弱きを挫き、強きを助ける」歪みまくった構造

ジャニーズ事務所と日本のメディアの”歪んだ関係”については、2000年にニューヨーク・タイムズ紙も詳細に報じていた

温泉のお湯を6カ月間入れ替えなかったことと、50年間何百人もの子どもたちを触ったり、口腔性交したり、肛門性交を強要すること、どちらが重大な罪だろうか。日本のメディアにとって答えは明白のようだ。

日本のテレビ局の幹部らは、今すぐ自分の名刺にこう刷るべきだろう。「弱きを挫き、強きを助ける」。

テレビ局に対して長きにわたって娯楽を提供してきたジャニー喜多川という男が、世界最悪級の連続児童性加害者の1人であったということに対して、日本のジャーナリズムはことごとく「無力」だった。人的、財務的、物質的資源が豊富にあるにもかかわらず。

バックのない弱いものばかり過剰に報道する

海外のテレビ局が日本のテレビ局についてつねに驚くのは、日本の同業者がヘリコプターを惜しげもなく使うことだ。東京都庁前での50人規模の東京オリンピックに対する反対デモや、各大臣の靖国神社参拝、カルロス・ゴーンの釈放などを撮影するためにヘリコプターを使う。だが、ジャニー喜多川の被害者には金を使って取材をしようともしない。

昨年、福岡の温泉経営者である山田真は、半年間ホテルのお湯を入れ替えず、温泉の衛生記録を改ざんしていたとして摘発された。テレビカメラは、まるで彼が麻薬組織のリーダーであるかのように、段ボール箱の撤去を伴う警察の家宅捜索を取材した。この国民的嫌がらせ(コクハラと言っていい)、緩慢な大衆リンチは、山田が自ら命を絶った時ようやく収まった。

すぐさま、メディアは次のターゲットを見つけた。それは、寿司をなめる自分の姿を愚かにも撮影したティーンエイジャーだ。メディアは彼を赤軍の一員であるかのように「寿司テロリスト」とのレッテルを貼った。次のターゲットは誰だろう? 仕事中に同僚の運転手に「こんにちは」と言ったバスの運転手? 鼻に指を突っ込んだ少年?

いずれにせよ、次なるジャニー喜多川や、統一教会の創始者、文鮮明ではないだろう。メディアは不倫をした有名人を容赦なく攻撃する。それなのに、有名人が何百人もの子どもに対して性加害したことはスルーするのか。

発展途上国においては報道の自由が保障されていなかったり報道の質が高くなかったりするために、自国の出来事を理解するために先進国のメディアに頼らざるを得ないことが多い。

これと同じことが日本でも起きた。3月にイギリスのBBCのドキュメンタリー番組で日本語を話せないイギリス人ジャーナリストがジャニー喜多川の行為を暴露したことで、多くの人がようやく実態を把握し、目を背けることができなくなったのだ。

報告書が「解明しなかったこと」

今回、林眞琴氏率いるジャニーズの再発防止特別チームが、報告書でジャニー喜多川の60年にわたる性加害の実態を最も生々しい形で暴露したことは評価されるべきである。下は8歳から14、15歳の少年たちが触られたり、肛門性交を促されたりしたことは地獄の旅としか言いようがない。

だが、報告書では”喜多川システム”が完全に解明されることはなかった。つまり、誰が彼に少年たちを提供したのか? 誰が被害者を黙らせたのか? 誰が? 誰が? メディア業界でこのことを知っていて、しかも、報じずに無視したのは誰なのか? 子どもたちの魂が殺され、夢が打ち砕かれたにもかかわらず、国民全体が見て見ぬふりをできたのはなぜか? こうした疑問は未解決のままである。

今回の報告書は、イギリスの連続性犯罪者ジミー・サヴィルを想起させる。サヴィルは、喜多川とほぼ同時期に何百人もの人々に性的暴行を加えた人気司会者である。2022年の『ガーディアン』紙の記事で、元BBC記者のマーク・ローソンは、サヴィルの疑惑に対してイギリスのメディアと権力が消極的だったことを認めている。

「本当の物語は、彼の被害者たち、そしてBBC、保健省、保守党、カトリック教会、警察、地方議会、名誉毀損法がいかに被害者らを失望させたかである。(中略)政治、王室、放送、教会、医療、慈善など、イギリスの体制がまばゆいばかりの盾を提供した怪物だったのだ」。同じことが、今日の日本のメディアや社会全体にも言える。

2011年に84歳で死去したジミー・サヴィルは死後、少年や少女への性的虐待が明らかになった(写真:Press Association/アフロ)

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