イスラエルとハマス戦争の裏読み
パレスチナはもともとパレスチナ人の土地だった。そこにイスラエルが建国されたが、基本的には軍事力でしか維持できない国。… pic.twitter.com/4Os22Fgn1C
— 藤原直哉 (@naoyafujiwara) October 9, 2023
イスラエルとユダヤ人 パレスチナとハマスは本当に一体なのか
出典:田中宇の国際ニュース解説
イスラエルとハマス戦争の裏読み
イスラエル軍は報復としてガザを空爆した。ハマスは「イスラエルが空爆を続けるなら、拉致した人質を公開処刑していく」と警告した。
イスラエル政府は、今回の件を正式に基本法に基づく「戦争」と位置づけた。イスラエルが「戦争」をするのは1973年の第四次中東戦争以来ちょうど50年ぶりだ。今回の戦争は、前回の50周年(10月6日)に合わせるかのようなタイミングで開始された。
(This Means War)
(Hamas Threatens To Begin Publicly Executing Hostages If Israel Doesn’t Halt Unrelenting Gaza Strikes)
この2年間、ハマスはイスラエルと戦争せず比較的良い関係を保っていた。ガザ市民がイスラエルに出稼ぎに行くことが許され、その経済効果を重視してハマスはイスラエルとの対立を避け、もう攻めてこないんだと直前まで解説されていた。
実際はこの2年間、ハマスは用意周到に戦争の準備を進めていた。劇的に開始された今回の戦争は、イスラエルにとっての「真珠湾攻撃」や「911」にたとえられている。
(Hamas ‘duped’ Israel before devastating attack)
(Israel’s Intelligence Failure)
イスラエルは最近、サウジアラビアと和解する話を進めてきた。ハマスはイランと親しく、イランはサウジとイスラエルの和解を好まないので、和解交渉を頓挫させるためにハマスがイスラエルとの戦争を始めたんだとも言われている。
ハマスの攻撃を予期できなかったネタニヤフ首相はこれから激しく責任追求され、辞任に追い込まれるとも予測されている。
(Israel-Saudi normalization falls casualty of Hamas attack)
イスラエルは南隣のガザのハマスだけでなく、北隣りのレバノンのヒズボラとも鋭く対立してきた。ヒズボラもハマスと同様、イランの傘下にある。
イスラエルがハマスとの戦争で弱っているのを見て、ヒズボラも戦争を仕掛けてくる可能性が高まっている。すでに戦闘が始まっているという報道もある。
(Israel fires artillery at Lebanon)
(The Flood from Gaza)
ヒズボラはシリア内戦で鍛えられ、政治的にもレバノンの与党になっている。ハマスとヒズボラの両方との戦争に陥ると、イスラエルは対抗できず負ける可能性がある。とくに戦闘が長引くと危険だ。
イスラエルの唯一最大の後ろ盾である米国は、ウクライナ戦争で兵器や予算を使いすぎて足りない。米国は、今回のようないざという時に役に立たない(日本は知っておくべき)。
(イランとイスラエルを戦争させる)
(ヒズボラの勝利)
イスラエルは窮地に陥っているが、この状況はネタニヤフ自身が誘発した意図的な策略でないかと私は考えている。ネタニヤフは、ハマスが攻めてくるのを知りながら放置した疑いがある。
ネタニヤフは、ハマスに侵攻させ、人質を取られることで、わざとイスラエルを弱い立場に追い込み、アラブ諸国や中露の仲裁で、ハマスやヒズボラ、イランと和解せざるを得ない状況を作っているのでないか。
(Israelis Question “Catastrophic” Intelligence Failure)
(Hezbollah Next To Attack? War Could Spiral Into Biggest In Decades)
世界は米覇権が急速に低下し、中露など非米側が台頭して多極化が進んでいる。イスラエルはこれまで米国を牛耳り、米国にイランやアラブを弱体化させる策をやらせてきた。
今後はもうそれが効かない。米国はすでに中東覇権をほぼ喪失している。イランやアラブは中露と結託して台頭している。
(The war has started)
(US in talks with Israel about its defense needs, has nothing to announce so far)
イスラエルは、米国を見限って中露と親しくしてイランやアラブと和解したい。だが、イスラエルは米国と一心同体になっており、米国から足抜けできない。
イスラエルのヨルダン川西岸(パレスチナ占領地)には、米諜報界の傘下にいるシオニスト右派が大挙して移住して入植し、入植者たちはイスラエル政界を支配している。ネタニヤフは入植者に頼って政権を維持してきた。
(世界を揺るがすイスラエル入植者)
(イスラエルが対立構造から解放される日)
イスラエルは米国(入植者)に牛耳られている。西岸入植者の在米の仲間たちは、ネオコンなど好戦派で、彼らは米国のマスコミや政界で強い力を持ち、米イスラエルをイランと戦争させようとし続けてきた。
今回も、WSJなどは早速「今こそイランと戦争すべきだ」と主張している。だが、すでにイラクは強く、米軍はイランと戦争しても快勝できないのでやらない。イスラエルだけがイランと戦争させられる。入植者やネオコンはユダヤ人だが、ロスチャイルド系(親イスラエルのふりをした反イスラエル)である。
(イスラエルとロスチャイルドの百年戦争)
(WSJ Joins Neocons To Instigate War On Iran)
ウクライナの厭戦機運が米国でも強まり、米国の世論は新たにイランと戦争することなどまっぴらだ。バイデン政権に巣食う民主党の左翼は、イスラエルでなくパレスチナを支援しているし、イスラエル政界では右派のネタニヤフでなく野党の左派連合を支持している。
バイデン政権は、以前からネタニヤフを嫌っている。米国はイスラエル沖に空母を派遣するぐらいしかやってくれない。
(Moscow blasts US approach to Israel-Palestine violence)
(Warmongers Start Push For US Involvement In Iran Following Hamas Attack)
ネタニヤフは、入植者に依存して政権を維持しているものの、入植者が猛反対するイランとの和解を進めないとイスラエルを潰してしまう。この難問を解くための妙案として、ハマスとヒズボラとの戦争誘発を考えたのでないか。
ハマスはイスラエル人や外国人の200人の人質をとっており、イスラエルがガザを空爆し続けるのは逆効果だ。交渉で解決するしかない。入植者たちは交渉に反対できない。
(Biden Tells Netanyahu More Military Aid Is on Its Way)
(‘The Squad’-Backed Democratic Socialists Of America Hold Times Square Protest ‘In Solidarity’ With Palestine)
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アラブの盟主であるサウジは、すでに非公式にイスラエルと仲が良い。アラブが仲裁し、ハマスとその背後にいるイランも間接的に入ってイスラエルと交渉し、イスラエルが拘束しているハマスの捕虜と交換に、ハマスが捕まえた人質を釈放するとか、ガザの諸問題の解決などを開始すれば、緊張を緩和できる。
(米国に頼れずロシアと組むイスラエル)
(中露が誘う中東の非米化)
イスラエルは今回の交渉の構図を使って、アラブだけでなくイランとも和解していける。入植者たちは反対しにくい。
米国は何もやってくれない。今回の仲裁役になれそうなアラブ連盟の代表が真っ先に訪問したのはモスクワだった。イスラエルがアラブ、イランと和解していけるとしたら、それはロシアや中国が作った非米側の枠組みの中でだ。
この和解がうまくいくと、米国の中東覇権はさらに失われ、中東はイスラエルを含む形で非米側の一員になっていく。
(Lavrov to hold talks with Arab League Secretary General in Moscow on Monday – MFA)
(非米化する中東)
今回の戦争の数週間前、ハマスはガザにイスラエルの町並みを模した場所を作り、そこで特殊部隊を訓練した。これは今回の攻撃の準備だった。イスラエル当局は、この動きに気づいていたが、何も対応しなかった。
エジプト当局も、ハマスの動きに気づき、イスラエルに報告・警告した。だが、イスラエル当局はほとんど反応しなかったという。これらはイスラエル当局の失態として報じられているが、本当に失態だったのか?。私は、意図的に無視したのでないかと勘ぐっている。
(Egypt Claims It Warned Israel Of Upcoming Attack)
50年前の第四次中東戦争でも、当時のゴルダ・メイア政権が、アラブ連合軍の侵攻の動きを意図的に事前に察知せずに大敗を演じ、国内の拡張主義者(今の入植者につながる勢力)たちの動きを阻止し、エジプトとの和解・国交正常化につなげた。
今回のネタニヤフの動きは、ゴルダメイアからの伝統を受け継ぐものに見える。
(イスラエルの戦争と和平)
今回の戦争開始は、911や真珠湾攻撃にたとえられるが、911も真珠湾攻撃も、米国が自国の体制や状況を転換させる目的で、敵方の動きを事前に知りながら(911では敵を育て)、意図的に敗北状況を作った観がある。
意図的な敗北戦略という意味で、今回の戦争開始と911や真珠湾攻撃、第四次中東戦争が同じだという、裏の関係性がある。
最近の記事で書いたように、アルメニアのパシニャン首相も、アゼルバイジャンとの戦争にわざと負け続け、ナゴルノカラバフの占領地を失うことで、自国を安定に導いている。
(ナゴルノカラバフ紛争の終わり)
ゴルダ・メイアは、第四次中東戦争の敗北を誘発した後、しばらくして引責辞任させられた。ネタニヤフも辞めさせられるのか。
ネタニヤフが辞めると、その後は中道左派などの連立政権になり、イランやアラブとの和解やイスラエルの非米化を引き継げる。またネタニヤフが辞めずに、入植者を切り捨てて中道系の勢力を政権内に引き入れて連立を組み替えて政権を維持する可能性もある。
イスラエルは、国家滅亡のハルマゲドンを避けてうまく非米化していけるのでないかと私は期待している。ユダヤ人は世界運営にとって重要なので、プーチンや習近平もイスラエル存続を望んでいるはずだ。
(ネタニヤフが延命のためガザで戦争)