金融・経済

プライベート・エクイティ業界が引き起こしているリーマンショックを上回る可能性のある金融崩壊リスク

プライベート・エクイティ(PE)業界とは、主に未公開企業や事業に対して投資を行い、企業価値を高めた後に株式公開(IPO)や売却によって利益を得ることを目的とする業界。機関投資家などから集めた大規模な資金の運用を行う
●主要プレイヤー
・ブラックストーン・グループ:世界最大級の資産運用会社
・カーライル・グループ:ワシントンDCを本拠地とする世界的なファンド
・コールバーグ・クラビス・ロバーツ (KKR):買収案件を多く手掛ける大手ファンド
・ベインキャピタル
※日本のPE市場は取引総額が4年連続で3兆円を超えるなど、活況を呈している。

出典:

  • 要点
    • 保険会社や年金基金が集めた巨額の資金が、規制が緩いプライベート・クレジットという高リスクな融資に流用され、さらに担保付ローン債務(CLO)として再パッケージ化されている。
    • このリスクはアメリカ人の年金だけでなく、再保険契約を通じて日本の大手保険会社にも及んでおり、不正な格付け操作がその危険性を隠蔽している。

プライベートエクイティ(PE)による保険資産の運用が世界金融システム崩壊のリスクとなる主な理由は、安全資産とされていた巨額の資金が、PEによる買収を通じて規制の緩い高リスク資産へと大量に流出し、さらにそのリスクが隠蔽・再パッケージ化されている点にあります。

長年にわたり、生命保険会社や年金保険会社は、顧客から預かった資金を失わないよう、長期国債や地方債といった安全資産(利回り3〜4%)に投資するのが一般的でした。

しかし、2008年のリーマンショック以降の約10年間にわたるゼロ金利時代により、これらの安全資産ではほとんど利益を生み出せなくなりました。この状況を受けて、保険会社はより高い利回りを求めて、プライベート・クレジット(民間企業へのリスクの高い融資)に投資し始めました。プライベート・クレジットは利回りが10%を超え、場合によっては20%近くになることもあります。

プライベート・クレジットは、通常の銀行融資と異なり、FDICによる厳しい監督や透明性がなく、規制されていません。このリスクの高い業界が、2008年以前のサブプライムローンよりも速いペースで成長しました。

さらに物語は急展開し、ブラックストーン、ブルックフィールド、アポロといった大手プライベートエクイティ(PE)が、保険会社そのものを買収し始めました。PE側は、保険会社が持つ契約者から集めた莫大な保険料を、自身が直接管理できることに気づいたためです。

この買収により、PEは数兆ドルという天文学的な資金(保険料)を直接管理できるようになり、この資金が高リスクの融資(プライベート・クレジット)への巨大な需要となりました。これにより、安全資産だと考えられていた資産が、高リスク資産へと流れるパイプラインが構築されたのです。

PEが管理する保険会社は、これらの高リスクのローンをさらにCLO(担保付きローン債務)として再パッケージ化しています。これは、リーマンショックの発端となったMBS(住宅ローン担保証券)と同じ手法が用いられており、高リスク債権を他の債権と混ぜてパッケージ化し、世界中に販売する行為です。

この高リスクの動きを隠蔽しているのが、信用格付けの問題です。

  • 高格付けを取得するために、PEやプライベート・クレジットと直接提携したり、子会社となったりしている小規模な民間格付け機関が利用されています。
  • 保険会社は、規制当局(NAIC)での格付けとは別に、金銭を支払うことで格付けスコアを上昇させる行為(格付けアービトラージ)を行っています。これは2007年に大手銀行が行っていた手法と全く同じです。
  • これにより、「クソみたい」な保険商品であっても、高格付けで販売することが可能となっています。

この結果、システムの表面には見えませんが、非常に多くのリスクがこれらの高格付け資産に潜んでいることになります。

PEによる保険資産の運用が世界的なリスクとされるのは、その規模と構造的な相互依存性のためです。

  1. 規模の甚大さ: 1億6000万人以上のアメリカ人がこれらの保険に加入しており、その資産はウォール街のPEが所有する大手保険会社50社に集約されています。
  2. グローバルな伝播: 日本の保険会社(東京海上、三井住友海上、日本生命、第一生命、明治安田生命、かんぽなど大手)も、米国のPEと再保険契約を結んでいます。この契約では、日本の保険会社が管理・支払い責任を負う一方で、米国のPEが債務を肩代わりする代わりに巨額の資産を受け取って運用します
  3. システミック・リスクの発生: もし景気が悪化したり、債務不履行(デフォルト)が増加したりすれば、PEが抱える非常に高いリスクは、莫大な額の損失へと変化します。ブラックストーンなどのグローバルなPEがアメリカ人や日本人の保険・年金資産を管理し、同時にそれを高リスク債務に投資している状況は、世界の金融システムそのものを崩壊させるリスクになります。これは、大手金融機関が数社破綻したリーマンショックと比較しても、比べ物にならないほど巨大なリスクを生み出すとされています。

参考記事:日本生命、プライベートエクイティファンドを通じたインパクト投資を開始(日本経済新聞|2020年7月15日)

現在、この世界的リスクに対して、BIS(国際決済銀行)、IMF、日本の金融庁などの当局も警告を発しています。この問題はまだシステム表面には現れていませんが、まるでシロアリが音もなく柱を蝕んでいるように、システムが崩壊して初めて事態が判明する可能性があります。


この状況は、たとえるならば、街の水道局(保険会社)が、市民から集めた飲料水(保険料)を、高利潤を求めて危険な化学工場の冷却水(高リスクのプライベート・クレジット)として販売し、さらにその冷却水を元の水道管に「安全な水」として偽装して戻している状態に似ています。通常は循環して機能しますが、工場が停止したり、冷却水が暴走したりすれば、街全体のインフラ(金融システム)が使用不能になるほどの被害が及ぶリスクを抱えているのです。